宝石の処理について

はるか昔から、人間には「宝石をよく見せたい、あるいは天然の外観とは異なるものにしたい」という願望があります。そのため美しく見せる技術として、宝石の世界には実に多種多様な処理があります。

宝石の処理は「宝石の外観または性質を人工的に変え、改善する工程」と定義されています。

当然ながら、石をカット・研磨することは処理に含まれません。

原石でもカットされた石でも、宝石はその色・クラリティ・輝き、または耐久性が向上するように処理されることが多くなっています。

日本では以前「ナチュラル」「エンハンスメント」「トリートメント」という3つの処理区分が用いられていましたが、現在では消費者保護の観点からより詳しい情報開示のニーズが高まり、具体的な処理の内容が鑑別書に記載されるようになっています。

それでは具体的にどのような処理があるのかを見ていきましょう。

加熱処理

ルビーやサファイアをはじめ多くの色石に施されている処理方法です。
色の悪い原石に色の改善を目的として加熱処理を施します。

色の良くないルビー(サファイア)をるつぼに入れ、トーチバーナーを用いて1000度以上の温度で焼きます。

現在流通しているコランダム(ルビー、サファイア)には95%以上のものに加熱処理が施されており、日本でも一般的な処理方法として受け入れられている処理です。

含浸処理(オイル・天然樹脂)

含浸処理はエメラルド等に一般的に施される人工処理方法です。
"傷のないエメラルドはない"といわれることがあるように、エメラルドはどこの産地のものでも一般に内包物(インクルージョン)を有しています。

また採鉱時の結晶には既にフラクチャーが生じたものも多く、加えてカット・研磨・ジュエリー加工などの段階中に不用意な取り扱いを受けるとこれらのフラクチャーが拡大する可能性があります。このようなエメラルドの表面に達する特徴を目立たなくするために、透明材の含浸が昔から慣習的に行われてきました。

氷を透明な水の中に入れるとその輪郭が見えにくくなるように、エメラルドのフラクチャーに屈折率の近い物質が含浸されるとフラクチャーが目立たなくなります。
エメラルドの屈折率はおよそ1.57〜1.59なので、この屈折率に近似するオイルや樹脂が含浸されています。
含浸物質として種々のものが知られていますが、現在最も広く利用されているもののひとつはシダーウッドオイルです。

このオイルは数種類の針葉樹、特にビャクシンから採取されています。また1980年代後半から急速に普及したのがエポキシ樹脂です。
オイルに比べると樹脂は屈折率がエメラルドにより近いため、見かけのクラリティ(透明度)向上に効果があります。
業界で知名度の高いオプティコンは商標名でエポキシ樹脂の一種です。

ベリリウム拡散加熱処理

2005年末頃から、"ベリリウム拡散加熱処理が施された"ブルーサファイア、パパラチアサファイアがタイのマーケットに入ってきました。

手法は従来の加熱処理とほとんど変わりませんが、加熱処理の最終段階である1800度での加熱時にクリソベリル粉末を加えることによって、表面の発色を元の色から別の色に変化させることができます。
その処理を施したものの中で桃色〜橙色に変化したサファイアをパパラチアとして流通させたことが、日本でも大きな問題となりました。

宝石の持つ本来の美しさを引き出すための一般加熱処理と違い、処理過程で別の色に変化させるという人為的な操作が行われることから、日本では極端に評価が低くなる傾向があります。

ガラス充填処理

ルビーやサファイアにある穴やキズを隠蔽するために、ガラス等を充填する処理です。
高価な宝石であるルビーやサファイアをカットする際に、削り落としてしまう原石を最小限に抑えるために、例え原石に穴があった場合でもその穴を避けずにカットすることがあります。

残された穴はそのままでは見栄えが悪いので、ガラスなどを充填し隠蔽することがあります。
この処理の施された宝石は日本では敬遠されるため、価値が極端に低くなります。

放射線処理

色の悪いダイヤモンドに放射線を照射し色を変えます。
処理されたダイヤモンドをトリーティド・カラーダイヤモンド(トリートカラー)と呼びます。
カラーレスやブラウンダイヤモンドにラジウム塩あるいはラドン、コバルト60を照射します。照射には電子線加速器を使います。

中でもファンデグラーフ加速器による着色は淡いアクワマリン・ブルーから帯緑青色までの色調が得られます。
現在は原子炉処理へと処理技術が移行しています。
ピンクやブルー・グリーンのような多くの色調も作り出されています。

カラーコーティング処理

最近のピンクダイヤモンドに見られる人工処理です。
ルースの状態だとルーペを用いた拡大検査により比較的簡単に判別可能です。
このコーティングは強酸に対し確実な耐久性がないとされています。

レーザードリル処理

白い紙に黒いマジックで線を引けば目立ちますが、白いチョークを用いれば目立たちません。
そんなコンセプトで考案されたダイヤモンドの処理法が、レーザードリル処理です。

ダイヤモンドの中に黒い物質(インクルージョン)があった場合、レーザー光線でその物質まで微小な孔を穿ち、そこに強力な酸を伝わせて使用し、黒い物質を白く漂白してしまう処理を指します。
この処理によってできた特徴を「レーザードリルホール」と呼びます。

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